大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和36年(行)9号 判決

原告 板橋醇一

被告 福岡国税局長・大牟田税務署長

訴訟代理人 高橋正 外三名

主文

一、被告大牟田税務署長が原告に対して昭和三三年一二月二六日付でなした原告の昭和三二年度分総所得金額を金三四八万一、七〇〇円とする更正処分のうち金一六七万六、二三三円(注、昭四二、三、二〇付更正決定により金一九四万二、〇四四円となる)を超える部分を取消す。

二、被告福岡国税局長が原告に対して昭和三六年一月二四日付でなした審査決定のうち金一六七万六、二三三円(注、昭四二、三、二〇付更正決定により金一九四万二、〇四四円となる)を超える部分を取り消す。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。

事実

原告

(請求の趣旨)

一、被告大牟田税務署長が原告に対して昭和三三年一二月二六日付でした原告の昭和三二年度分総所得金額を金三四八万一、七〇〇円等とする更正処分は、これを取り消す。

二、被告福岡国税局長が原告に対して昭和三六年一月二四日付でした前記更正処分についての再調査決定に対する審査決定は、これを取り消す。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

(請求の原因)

一、原告は、昭和三三年三月一五日被告大牟田税務署長に対し、青色申告をもつて原告の昭和三二年度分の所得金額を金六三万五、三七三円と確定申告し、後に同年一二月一四日これを金九一万八、四〇〇円(事業所得金六九万二、六八四円、配当所得金六万六、一一四円、不動産所得金一〇万九、七五一円、給与所得金四万九、九二〇円)と修正確定申告をしたところ、同被告は、同月二六日付をもつて右所得金額を金三四八万一、七〇〇円と更正し、そのころその旨を原告に通知した。

二、そこで、原告は、昭和三四年一月二二日同被告に対し、右更正処分についての再調査の請求をしたが、同被告は、同年二月二〇日付をもつてこれを棄却する旨決定し、そのころその旨を原告に通知した。

三、さらに、原告は、同月二四日被告福岡国税局長に対し、右再調査決定に対する審査請求をしたところ、同被告は、昭和三六年一月二四日付をもつてこれを棄却する旨決定し、そのころその旨を原告に通知した。

四、しかし、前記更正処分および右審査決定は、ともに原告の所得金額を過大に評価した違法がある。

よつて、原告は、被告らに対し、被告らが、それぞれなした右更正処分および審査決定の取消を求めるため本訴に及んだものである。

(被告らの主張に対する答弁)

原告が金融業および質屋業を営む者であり、被告ら主張のような所得を有する者であることは認めるが、被告ら主張のような所得金額はこれを争う。

一、事業所得の合計金額は争う。

(一)  総収入金額は争う。

(1) 認める。

(2)

(イ) 認める。

(ロ) 被告ら主張の別表第一、番号一ないし二九が、すべて未収利息であること、その債務者、貸付年月日、返済期限、元本、当初利率、利息計算の期間ならびに右別表番号一六ないし二四、二五ないし二八および二九につき、そのうちに被告ら主張のような金額の既収利息があることは認める。

しかし、右別表番号一、六、一〇、一四、一六ないし一八、二一、二二、二四、二七および二九については、被告ら主張のような期限後の利息を原告の貸付台帳に記載していたことは認めるが、これをもつて当該債務者との間に期限後の利息として約定したことは否認する。右貸付台帳記載の期限後の利息は原告において一方的に計算したものである。

また、右別表番号二ないし五、七、八、九、一一ないし一三、一五、一九、二〇、二三、二五、二六および二八についてはその未収利息の額を争う。すなわち、被告らの利息算出根拠は利息制限法第四条第一項によつているが、期限後の利息の定め、すなわち賠償額の予定がない場合であるから、同法第一条第一項の制限内で利息を算出すべきである。

2、認める。

3、(1)(2)とも認める。

(二)  総必要経費の額は争う。

1、認める。

2、認める。

3、認める。

4、認める。

5、認める。

6、

(イ) 認める。

(ロ) (B)の事実は認めるが(A)の事実は否認する。すなわち、原告は金一〇万六、一七一円を事業用店舗の修繕のため支出した。

右修繕個所は、道路に面した部分であつて、白蟻の被害により出入口の引戸の開閉に事欠く状態であつたところから、やむなく原告においてこれを修繕したものであるからこれに要した費用右金一〇万六、一七一円をもつて原告の金融業関係の修繕費とすべきである。

7、認める。

8、金二二万九、七一九円について被告ら主張のように帳簿上記載していること、したがつて右金員が立替金あるいは仮払金であることまたそのうち金三万七、九〇五円についてのみ帳簿上回収不能または債務免除としての記載があることは認める。

9、認める。

10、認める。

11、認める。

12、(イ) 認める。

(ロ) 争う。金一〇万六、一七一円は前記6記載のとおりすべて修繕費として計上すべきである。

13、被告ら主張の別表第三上段のうち、その債務者および金額ならびに右別表番号八が被告ら主張のとおりであることは認めるがその余の事実は否認する。右番号一ないし七についても別表第三下段のとおりの理由により貸倒金と認定すべきであるから、原告の貸倒金は右番号一ないし七の合計金一四万七、三七六円と被告ら認定の金一一万二、九七二円の合計金二六万〇、三四八円とすべきである。

14、認める。

15、認める。

16、(1)(2)とも認める。

(三)  争う。

二、認める。

三、認める。

四、認める。

五、争う。

(主張)

一、未収利息についての利息制限法違反の主張

被告ら主張の別表第一番号一、五、六、一〇、一四、一六ないし一八、二一、二二、二四、二七および二九の未収利息については利息制限法の制限をこえる部分は違法のものとして請求できないから、当初利率については、同法第一条第一項の制限をこえる部分は、いずれも無効であつて課税の対象から除外すべきである。

二、未収利息についての回収不能の主張

かりに、被告らの主張が認められるとしても、別表第四の記載の未収利息については同表「回収不能の理由」欄記載のとおりの理由により、その利息の回収が不能となり貸倒金となつたので課税の対象から除外すべきである。

三、整理訴訟費についての回収不能の主張

原告が整理訴訟費として支出した金二二万九、七一九円と被告ら査定の金三万七、九〇五円の差額金一九万一、八一四円についても当時はもちろん現在も債務者行方不明または債務者無資力債務免除などの理由により回収不能となつたものであるから整理訴訟費と認定し、必要経費としてこれを控除すべきである。その明細は別表第五記載のとおりである。

(証拠省略)

被告ら

(請求の趣旨に対する答弁)

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の原因に対する答弁)

一、認める。

二、認める。

三、認める。

四、争う。

(主張)

原告は、福岡県山門郡瀬高町において、金融業および質屋業を営み、他に配当所得、不動産所得および給与所得を有する者であるが、被告大牟田税務署長は、原告主張のような修正確定申告に対して更正処分をなし、原告の昭和三二年の所得金額を、(イ)事業所得金三二五万六、〇三四円、(ロ)配当所得金六万六、一〇〇円、(ハ)不動産所得金一〇万九、七〇〇円、(ニ)給与所得金四万九、九二〇円合計三四八万一、七〇〇円と決定したが、被告福岡国税局長において審査の過程およびその後調査した結果、原告の同年の所得金額は、(イ)事業所得金三四四万七、二五一円、(ロ)配当所得金一〇万七、四〇七円、(ハ)不動産所得マイナス金六、四二六円、(ニ)給与所得金四万九、九二〇円、合計金三五九万八、一五二円と判明したものであつて、その所得金額算出の根拠はつぎのとおりである。

一、事業所得合計金三四四万八、四一二円

(総収入金額マイナス総必要経費)

(一)  総収入金額小計金四五九万六、一〇五円

1、利息収入金

(1) 既収利息

(イ) 質屋業

金五万六、七三九円

(ロ) 金融業

金一五一万一、六四七円

(2) 未収利息

(イ) 質屋業

金一万〇、五三四円

(ロ) 金融業

金二六七万六、九八八円

右金融業関係の未収利息の債務者、貸付年月日、返済期限、元本、当初利率、期限後利率、未収利息の額、その計算方式およびそのうちより差し引くべき既収利息の額については別表第一(一)記載のとおりでありこれに対する説明は同(二)記載のとおりである。

2、流質販売益

質屋業 金五万〇、九七〇円

3、青色申告の準備金戻入

(1) 貸倒準備金戻入

(イ) 質屋業 金八九八円

(ロ) 金融業 金二二万七、〇三三円

(2) 価格変動準備金戻入

質屋業 金六万一、二九六円

(二)  総必要経費

小計 金一一四万七、六九三円

1、公租公課

金融業 金五万九、六五〇円

2、水道光熱費

質屋業 金四、一六四円

3、旅費通信費

(イ) 質屋業 金八、一三〇円

(ロ) 金融業 金二、二五五円

4、広告宣伝費

金融業 金二、〇〇〇円

5、接待交際費

金融業 金八、六七〇円

6、修繕費

(イ) 質屋業 金一、三五〇円

(ロ) 金融業 金一、七三〇円

原告の金融業関係の修繕費については、原告はこれを金二〇万〇、九八八円と申告したが、右金一、七三〇円を除くその余の部分はつぎの理由により修繕費として認定しなかつた。

(A) 金一〇万六、一七一円については、原告の事業用店舗の改造に支出されたものであるから、所得税法第一〇条第二項所定の必要経費に該当せず、同法施行規則第一一条所定の資本的支出であると認められたので被告らにおいてこれを事業所得計算上の修繕費としては計上することなく、これを当該年度分建物減価償却費金一、九六四円として追認し別途加算した。

(後記(12)(ロ)参照)

(B) 金九万三、〇八七円については、原告所有の貸家の修繕費として支出されたものであるから、被告らはこれを原告の不動産所得計算上の修繕費として振りかえた。(このため後記三のとおり原告の不動産所得はマイナスとなつた。)なお修繕費の支出関係の明細は別表第二記載のとおりである。

7、消耗品費

金融業 金四、一九一円

8、整理訴訟費

金融業 金三万七、九〇五円

原告は、整理訴訟費と称して金二二万九、七一九円(申告額は金二三万〇、七一九円となつているが、これは計算の誤りと認められる)を支出しているが、被告らにおいて原告の帳簿を調査したところ、右支出については、原告の貸金事業につき、督促訴訟等に関し、債務者の負担に帰すべき出費のあつた場合原告はこれを帳簿上その科目の借方に記載し、後日債務者から入金のあつた場合には同額だけを同科目の貸方に記載していることが判明した。したがつて、原告が整理訴訟費として主張するのは、いわゆる仮払金的性質を有するものであつて所得税法第一〇条第二項所定の必要経費に該当しないので被告らは原告主張額中、前記帳簿上原告が回収不能または債務免除をしたとして記載がある金三万七、九〇五円を整理訴訟費として認定しなんら右のような記載のないその余の部分は当然立替金あるいは仮払金として処理したものである。

9、減価償却費(建物以外)

金融業 金一万七、九四四円

10、雑費

(イ) 質屋業 金四、三四〇円

(ロ) 金融業 金三万五、二三七円

11、雇人費

質屋業 金一五万七、九〇〇円

12、減価償却費(建物)

金融業 金二万九、四二五円

右金額の算出根拠はつぎのとおりである。

(イ) 金二万七、四六一円

右は昭和三〇年末における建物の価額金六六万四、〇〇九円に事業専用割合六〇パーセントを乗じた金三九万八、四〇五円から昭和三一年度分減価償却費金二万七、三〇〇円を控除した金三七万一、一〇五円に償却率(〇、〇七四)および償却期間(一二分の一二)を乗じたものである。

(ロ) 金一、九六四円

右は前記6(A)記載の修繕費中資本的支出に相当する金一〇万六、一七一円に償却率(〇、〇七四)および償却期間(一二分の三)を乗じたものである。

右(イ)(ロ)合計 二万九、四二五円

13、貸倒金

金融業 金一一万二、九七二円

原告の申告は金二六万四、六一〇円であるが、別表第三上段記載のとおりの理由によりそのうち金一五万一、六五八円については貸倒金と認定しなかつた。(右金額は原告の申告額、被告ら認定の差より金二〇円多いがこれは原告の申告の誤りである)

14、利子割引料

金融業 金三〇万六、八六四円

15、専従者給与

金融業 金八万円

16、青色申告の準備金繰入

(1) 貸倒準備金繰入

(イ) 質屋業 金一、四〇五円

(ロ) 金融業 金二一万〇、二六五円

(2) 価格変動準備金繰入

質屋業 金六万一、二九六円

(三)  したがつて、原告の事業所得は前記(一)総収入金額金四五九万六、一〇五円より前記(二)総必要経費金一一四万七、六九三円を控除した額すなわち、金三四四万八、四一二円である。

二、配当所得

金一〇万七、四〇七円

三、不動産所得

マイナス金六、四二六円

(不動産所得についてマイナスとなつたのは、前記一、(一)、6、(ロ)(B)記載のように事業所得計算上の修繕費を不動産所得計算上の修繕費に振り替えたことなどの事情による。)

四、給与所得

金四万九、九二〇円

五、以上を総合すると、原告の昭和三二年度分総所得額は金三五九万九、三一三円となり、被告大牟田税務署長のなした更正所得金額を金一一万七、六一三円上廻わるので右更正処分およびこれを相当と認めた被告福岡国税局長のなした審査決定はいずれも適法というべきである。

(原告の主張に対する答弁)

一、争う。

すなわち、所得税法第一〇条第一項は同法第九条第一項第四号の事業所得計算の基礎となる総収入金額を「その収入すべき」金額の合計金額と定義している。

しかして、右条項は経済的効果主義と発生会計主義を根拠としており、右「収入すべき」金額は課税の基因となつた行為に伴い特定の個人による発生的に支配可能な経済的効果が生じたときに確定するものであつて、しかもその基因となつた行為が無効なものまたは取り消しうべきものである場合にも経済的効果が除去されない限り発生した経済的効果が所得計算の対象たることに変りがない。

これを本件についてみると係争年度において、原告が、その債務者との金銭消費貸借について約定利息の取決めをしたときに前記「収入すべき金額」が確定したものというべく、約定利率の改定、または免除ないし法定制限利率超過部分の無効確認等が当該年度においてなされない限り、当該約定利息が収入金となるのである。

二、いずれも否認する。

三、否認する。

(証拠省略)

理由

一、原告は、昭和三三年三月一五日被告大牟田税務署長に対し、青色申告をもつて原告の昭和三二年度分の所得金額を金六三万五、三七三円と確定申告し、後に同年一二月一四日これを金九一万八、四〇〇円と修正確定申告をしたところ、同被告は、同月二六日付をもつて右所得金額を金三四八万一、七〇〇円と更正し、そのころその旨を原告に通知したこと、そこで原告は昭和三四年一月二二日同被告に対し、右更正処分についての再調査の請求をしたが、同被告は同年二月二〇日付をもつてこれを棄却する旨決定し、そのころその旨を原告に通知したこと、さらに、原告は、同月二四日被告福岡国税局長に対し、右再調査決定に対する審査請求をしたところ、同被告は、昭和三六年一月二四日付をもつてこれを棄却する旨決定し、そのころその旨を原告に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、次に被告の主張について判断する。原告は金融業および質屋業を営むものであり事業所得の他、配当所得、不動産所得、給与所得を有すること、原告は昭和三二年度に、配当所得金一〇万七、四〇七円、不動産所得マイナス金六、四二六円、給与所得金四万九、九二〇円を所得したことについては当事者間に争いがない。

そこで原告の昭和三二年の事業所得額について判断する。

事業所得は一年の総収入金額から総必要経費を控除した金額であるから、原告の同年度における個々の収入、支出につき以下検討する。

1、原告は昭和三二年において、

(イ)  収入として

利息収入金

既収利息  質屋業 金五万、六、七三九円 金融業 金一五一万一、六四七円

未収利息  質屋業 金一万〇、五三四円

流質販売益 質屋業 金五万〇、九七〇円

青色申告の準備金戻入

貸倒準備金戻入   質屋業 金八九八円 金融業 金二二万七、〇三三円

価格変動準備金戻入 質屋業 金六万一、二九六円

(ロ)  支出(必要経費)として

公租公課  金融業 金五万九、六五〇円

水道光熱費 質屋業 金四、一六四円

旅費通信費 質屋業 金八、一三〇円 金融業 金二、二五五円

広告宣伝費 金融業 金二、〇〇〇円

接待交際費 金融業 金八、六七〇円

修繕費   質屋業 金一、三五〇円

消耗品費  金融業 金四、一九一円

減価償却費(建物以外) 金融業 金一万七、九四四円

雑費    質屋業 金四、三四〇円 金融業 金三万五、二三七円

雇人費   質屋業 金一五万七、九〇〇円

利子割引料 金融業 金三〇万六、八六四円

専従者給与 金融業 金八万円

青色申告の準備金繰入

貸倒準備金繰入   質屋業 金一、四〇五円 金融業 金二一万〇、二六五円

価額変動準備金繰入 質屋業 金六万一、二九六円

があつたことについては当事者間に争いがない。

2、金融業に関する修繕費について(被告らの主張一、(二)、6、(ロ))

原告が金融業に関する修繕費として支出したと主張する金二〇万〇、九八八円のうち金一、七三〇円を金融業に関する修繕費として支出したこと、金九万三、〇八七円について、原告所有の貸家の修繕費として支出したことについては当事者間に争いがない。

検証の結果、証人衛藤慎吾の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告が事業用として使用していた店舖は、出入口の戸が白蟻の被害により開閉が困難になつていたこと、又店舖の外観特に出入口の模様が、這入りにくい印象をあたえ金融業を営んでいく上に適当でないと原告が考えていたこと、そこで原告は、道路に面した店舖の南側の軒を二尺から六尺巾に広げ、その部分を増築して店舖を広げたこと、また出入口の格子戸については、白蟻により腐蝕していた木の敷居をとり除いて、敷居の下にあつた石の上に直接鉄製のレールを敷き、格子戸の下部の痛んだ部分を新しいものととりかえ、背のとどかなくなつた部分は継ぎ足したこと、道路に面した柱、壁に塗装を施し、増築部分とつり合うようにしたことが認められる。

右は原告の店舖の価値を増加させ、耐用年数を増加させていると考えられるので単なる修繕ではなく改造であつて、その費用金一〇万六、一七一円は、資本的支出として同年度においては建物減価償却費として計上されるにすぎないものであると認めるのが相当である。

3、金融業に関する整理訴訟費について(被告ら主張一、(二)、8)

原告が、整理訴訟費として金二二万九、七一九円を支出した旨帳簿上記載していること、右の金員は立替金あるいは仮払金であること、右のうち金三万七、九〇五円については、回収不能または債務免除した旨帳簿上記載があることについては当事者間に争いがない。右の事実によれば原告は、立替金あるいは仮払金として金二二万九、七一九円を支出したこと、右支出のうち金三万七、九〇五円については回収不能または債務免除として処理したことが認められる。

いわゆる立替金あるいは仮払金的性質を有するものは所得税法第一〇条第二項所定の必要経費には該当しないものと考える。したがつて回収不能または債務免除したことが認められる右金三万七、九〇五円についてのみ整理訴訟費として支出に計上できると認めるのが相当である。

4、金融業に関する減価償却費(建物)について(被告らの主張一、(二)、12)

原告が減価償却費として金二万七、四六一円を支出したことについては当事者間に争いがない。

前記一、2で認定のとおり、原告は事業用店舖の改造のために金一〇万六、一七一円を支出しているので、右金員に償却率(〇、〇七四)および償却期間(一二分の三)を乗じた金一、九六四円は昭和三二年の減価償却費として支出に計上できると認められる。したがつて、金一〇万六、一七一円全額を修繕費とすべきだという原告の主張は前記の理由により認められない。

5、金融業に関する貸倒金について(被告らの主張一、(二)、13)

金一一万二、九七二円の貸倒金があつたことについては当事者間に争いがない。

そこで原告の主張するその余の貸倒金別表第三、番号一ないし八のうち既に未収利息として処理したことを原告が自認する別表第三、番号八以外のものについて以下検討する。

(1)  西村次郎吉

証人衛藤慎吾の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二および右証人の証言を総合すると元本金二万五、〇〇〇円については、昭和二九年所得計算上貸倒金として処理済みであることが認められ、これに反する証拠はない。

(2)  田中喜一郎

原告は、田中喜一郎に金二五万円を貸与するに際し、担保ならびに保証人があつたことについて争わない。原告は右債権に対し競売を実施したが、最低競売価格が元本以下となり、かつ保証人原田勇は無資力であると主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。

(3)  郷原鶴義

郵便官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨より真正に成立したと認められる甲第三号証によれば郷原鶴義が原告から金一〇万円を借りるに際し、松岡弥三八に無断で同人所有の不動産に抵当権を設定し更に同人を保証人としたこと、そこで同人は右郷原を告訴し審理中であることが推認される。しかし右事実のみによつて右抵当権設定契約ならびに保証が無効であるとは断定出来ず、また抵当物件が暴風の被害によつて価値がなくなつたことを認めうる証拠はない。

(4)  東唯二、溝田利雄

成立に争いのない甲第六、七号証の各一ないし四によれば、原告は、東唯二、溝田利雄が期限に債務を弁済しないので、その担保不動産に対しそれぞれ競売を実施したがいずれもその最低競売価格が元本以下であつたことが認められる。しかし右事実からただちに債務者が支払をなすことができないということが出来ないし、仮に支払をなすことができないとしても、貸倒れというためには債務者がその支払をなすことができないと認められるだけでは充分でなく更にその債権について放棄または消却の措置をしていることが必要であるところ、原告が右債権を放棄または消却したことを認めるに足る証拠はない。

(5)  永渕与三郎

原告が永渕与三郎に対する債権に対し、抵当権ならびに保証人を有したことは当事者間に争いがない。原告は債務者に対する根抵当権設定の極度額は、元本の金一五〇万円を限度とするものであつて、利息についての担保はなく、また、保証人松本勇は右極度額の範囲内で保証したものであつて、かつ、利息として受け入れた手形はすべて不渡となつたと主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。

(6)  矢ケ部フクノ

証人衛藤慎吾の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二および同証人の証言を総合すると、原告は昭和三一年九月七日に利息金三、六〇〇円の支払を受けたことが認められる。原告は、債務者が元本金一二万円を弁済供託しているので利息収入は不能であると主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。

以上認定のとおり、別表第三、番号一ないし七の合計金一四万七、三七六円は貸倒れとは認められない。

6、(イ) 金融業に関する未収利息について(被告らの主張一、(一)、1、(2)、(ロ))

別表第一、番号一ないし二九がすべて未収利息であること、およびその債務者、貸付年月日、返済期限、元本、当初利率、利息計算の期間、既収利息の額については当事者に争いがない。

証人鶴見元一の証言によれば別表第一、番号一六の債権について原告と債務者鶴見元一との間に期限後の利息につき被告主張のような約定があつたことが認められる。右別表番号一、六、一〇、一四、一六ないし一八、二一、二二、二四、二七および二九の債権について、被告主張のとおりの期限後の利息を、原告が貸付台帳に記載していたことについては原告の自認するところである。以上の事実から、右別表一、六、一〇、一四、一七、一八、二一、二二、二四、二七、二九の債権についても原告と債務者との間に期限後の利息につき被告主張のような約定のあつたことが推認され、これに反する原告本人尋問の結果は信用出来ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

前記認定の事実および弁論の全趣旨によれば、右別表番号二ないし五、七、八、九、一一ないし一三、一五、一九、二〇、二三、二五、二六、二八についても原告と債務者の間に期限後の利息は弁済期までの利息と同額とする旨の約定があつたことが推認され、これに反する原告本人尋問の結果は信用出来ない。

(ロ) そこで次に、原告の未収利息についての利息制限法違反の主張につき判断する。

利息制限法所定の利率をこえる部分の未収の約定利息、損害金を所得税法(昭和二二年法律第二七号、以下旧所得税法という)第一〇条第一項にいう「収入すべき金額」に当るとして課税できるかどうかについて検討する。

所得税は所得自体に着眼しその所得原因の如何を問わずに課税されるものであるから、法令に禁止された行為に基づく収入であつても、それが所得を構成するかぎり課税の対象となることはいうまでもない。

したがつて利息制限法所定の利率をこえる部分の約定利息、損害金であつてもそれが収入金額として所得を構成する場合は課税の対象となることは明らかである。

ところで所得税は一年間の期間をもつて計算される所得に対して課税されるものであり、所得がどの年度に帰属するかについて旧所得税法第一〇条第一項は「………収入金額は………収入すべき金額による」と規定し必ずしも現実に収入のあつた年度によらないこととしているのであるが、右にいう「収入すべき金額」とはいわゆる権利確定主義により「収入する権利の確定した金額をいう」ものと解される。しかしながら所得税法上の権利確定主義は会計理論上の発生主義に対応すると考えられるものであるが、右会計理論が企業の経営活動を把握するための会計技術的側面から生じたものであるのに対し、税法上の権利確定主義は右理論に対応しながらも税法上いかなる時点で収入経費の発生を確実なものとして認識しうるかを主として法律的側面からとらえようとしたものと解すべきである。しかも所得税法上権利確定主義は一応の原則であつてその例外を許さないものではなく、また権利確定主義の適用される場合であつてもいかなる時期をもつて権利が確定したと解するかは所得の如何によつて一様ではなく、所得の種類、性質によつてこれを決定しなければならないところである。そこでいかなる時期をもつて権利が確定したとみるべきかについて検討してみると、税法上権利確定主義が採用される重要な理由の一つが、徴税技術上所得を画一的に把握し税収を確保する必要性があることに存することはいうまでもないところであるが、もともと所得税は究極的には実現された収支に対応する所得を対象とすべきものであるから(仮に権利確定主義により収入の実現される以前に課税する建前をとればその実現が不能となつた場合には経費として控除するなど、究極的にこれを是正し、実現されない収入には課税しないという配慮を必要とする。)権利確定の時期を決定するについてはできるだけ収入の実現の蓋然性が高い時点を選ぶべきであり、また権利確定主義を採用すべき重要な理由の一つとして、収入の実現が可能である場合にその実現に努力した者には課税され実現に努力せずこれを放置する者には課税されないという現実収入主義によつて生ずる課税の公平負担を害する結果を避けることにあるという点を考慮すると、通常の経済人ならばその実現をはかりまたその実現が可能とされる状態をもつて権利確定の時期を選ぶべきであつて、この意味から収入の権利確定の時期としては原則として法律上権利の行使ができるようになつたときを基準とすると解するのが相当である。(最高裁判所昭和四〇年九月八日判決、刑集一九巻六号六三〇頁参照)

そこで消費貸借に基づく利息、損害金収入についてこれをみると、利息制限法所定の利率による約定利息、損害金については、その履行期の到来により利息、損害金債権が確定し、右確定した年度の所得として課税さるべきものと解される。しかしながら利息制限法所定の利率をこえる部分の約定利息、損害金については、ほんらい右利息、損害金の約定は無効であつて法律上なんらの債権も発生しないものであり、したがつてその受領前に法律上権利を行使しうることはありえず、現実の支払いがあつてはじめてこれに対し所得の帰属を考えうるものであるから、その未収の段階における年度の所得としては課税することは許されないと解すべきである。(但し現実に受領した年度の所得として課税されることのあることはいうまでもない。)

もつとも所得税法上所得の概念はもつぱら経済的に把握すべきであり利息制限法所定の利率をこえる利息、損害金の約定があつた場合には経済的にみて利得を現実に支配管理し自己のためこれを享受しうる可能性があるから課税対象となる所得を構成するのではないかとの疑がないわけではない。しかしながら納税義務者が一定の財貨を取得しまたはその可能性がある場合に、それが所得を構成するかどうかはそれが納税者の収入となりかつそれが納税者に帰属することが必要であり、たとえば財貨の取得が消費貸借に基づく金銭の受領である場合にはその金銭が元本の支払いに充当されるものではなく利息、損害金として受領しうるものであつてはじめて収入となり所得を構成すると考えられるのであるが、金銭の受領が元本に充当されるものか利息、損害金の受領となるかは法律的な評価を俟つてはじめて可能であり、純経済的観点のみからこれを区別することはできないと考えられるし、またその収入が納税者に帰属するかどうかも法律に規律される社会生活においては法律的観点を全く離れてはこれを決定することはできないといわなければならない。

したがつて税法上所得概念を把握するについて法律的観点を全く離れて純経済的にのみ把握することは相当でないといわなければならない。

また利息制限法所定の利率をこえる利息、損害金の約定がなされた場合には、それが未収であつても経済上一定の金銭を受領する可能性のあることは必ずしも否定できない。しかし元本債権が残存するかぎりは仮にこれを受領しても元本に充当されその全部が利息、損害金収入を構成しないのではないかとの疑いもありその限度では利得を支配管理しているとすらいえないのではないかとも考えられ、また元本債権がすでに計算上存在しない場合でも、債務者が任意に支払いを続けるかぎり事実上利得の受領を期待しうるにすぎず、債務者が一旦任意の支払いをしないような状態になつた場合にその実現をはかる合法的な手段はなくむしろ回収不能になるおそれの極めて高いものであつて、かような単に相手方の任意の履行にのみ期待し納税者から合法的にこれを実現する手段を有しないような地位をもつて所得の対象となる利得を支配管理しているといえるかは少なからぬ疑問があり、少なくとも法律上権利を行使しうる債権と全く同様に収入の確定したものとして取扱うことはできないものと解すべきである。そこで単に経済的に金銭を受領する可能性が発生したにすぎない利息制限法所定の利率をこえる未収利息をもつて直ちに所得があるとして、その年度の所得として課税することは許されないというべきである。

したがつて被告の主張する金融業に関する未収利息金二六七万六、九八八円中、別表第一に利息制限法制限内として記載している金額(右の計算方法は元本が一〇万円未満の場合は年二割、同一〇万円以上一〇〇万円未満の場合は年一割八分、同一〇〇万円以上の場合は年一割五分とし期限後の利息はいずれもその二倍としている。)から同表記載の既収利息を控除した金額の合計金一〇一万九、七一九円(但し未収利息から既収利息を控除した金額がマイナスとなる右別表番号16、17、18、21、22、23、25~28の場合はゼロとして計算している。)を超える金一六五万七、二六九円については無効なものとして請求できないからこれを課税の対象から除外すべきである。

しかして以上認定した事実を総合すると原告の昭和三二年の質屋業および金融業に関する収入は金二九三万八、八三六円であり、支出(必要経費)は金一一四万七、六九三円であることが認められるから同年度の事業所得は前者から後者を控除した金一七九万一、一四三円であり、原告の昭和三二年度総所得金額は金一九四万二、〇四四円(右事業所得に前記配当所得、不動産所得、給与所得を加えたもの)であることが認められる。

三、次に、原告の未収利息についての回収不能の主張について判断する。

別表第四のうち番号八、九、一四、一五については貸倒金と認められないことは前記一、5において認定したとおりである。前記のとおり回収不能で貸倒を生じたというためには、債務者がその支払をなすことができないと認められるだけでなく、その債権を放棄し、又はその債権を消却していることが必要であるが、右別表のその余のものについても債権放棄、債権を消却したことを認めるに足る証拠はない。したがつて原告の右主張は失当である。

四、次に原告の整理訴訟費についての回収不能の主張について判断する。

原告は、原告が整理訴訟費として支出した金二二万九、七一五円と被告ら査定の金三万七、九〇五円の差額金一九万一、八一四円についても債務者行方不明または債務者無資力債務免除などの理由により回収不能となつたと主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。

五、以上に認定したところから、原告の昭和三二年度の総所得は金一九四万二、〇四四円であるから、昭和三三年一二月二六日付で被告大牟田税務署長がなした原告の昭和三二年度の総所得を金三四八万一、七〇〇円であるとした処分は、原告の所得を金一五三万九、六五六円超過していること計数上明らかであり、その意味において、被告大牟田税務署長のなした右更正処分およびこれを正当と認めた被告福岡国税局長が昭和三六年一月二四日付でなした審査決定はいずれも所得税を過大に認定した違法があるので原告の昭和三二年度の総所得金額金一九四万二、〇四四円を超える部分は取消すべきである。

よつて被告らの右処分を違法としてその取消を求める本訴請求は右認定の限度において理由があると認めてこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎光次 越山安久 和島道代)

(別表一、―五、省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例